つくり手インタビュー:ナガタマイ(イラスト)
差し出された富士山型の名刺。それは、初夏の大空を思わせるような美しい青で彩られていました。 「ウォーミングアップがわりに毎朝5枚、名刺の一部を手描きしているんです。月ごとにモチーフを変えたりして楽しんでいます」と笑うのは、イラストレーター・デザイナーのナガタマイさんです。
ナガタさんは「Ajiuの杜」の第一印象を支える、ホームページのイラストレーションを担当しています。「Ajiuの杜」がまだ“さら地”でパースや模型しかなかった頃から、イメージイラストを描きはじめたというナガタさんに、今回のイラストや仕事に対する思いを尋ねました。
ーOLを経て、イラストレーターになったと伺いました。
ナガタ もともと、小さな頃から絵を描くことが大好きだったんですが、それを仕事にしようという気持ちはなぜかまったくなくて。好きだけど、自信がなかったんですね。
そんな中、OL時代によく行っていた熊本市大江の雑貨店「ミドリネコ舎」で、壁面をイラスト展等に無料で貸し出していると聞き、思い切ってお願いし、貸していただくことになりました。それまで、友人などに依頼されてウェルカムボードやちょっとしたイラストを描くことが多く、 “ゼロから自分で生み出す作品”を描いたことがほとんどなかった私にとっては、大きな挑戦です。
1年以上もテーマを決めきれない中、「自分が描きたい絵ではなく、自分が見たい絵を描こう」という答えにたどり着き、『花と動物』をテーマにした展示に決めました。大人も子どもも、世代を問わず多くの人に喜んでいただきたいなと思ったんです。また、この個展でもうひとつの挑戦として取り組んだのが、似顔絵のライブドローイングです。
その後、ご縁あって市内のデザイン事務所にお世話になることになり、それを機に、似顔絵作家やイラストレーターとしてオーダーをいただくように。最近では雑誌の挿絵や立体的なイラスト、空間ディスプレイ、パッケージデザインなど、アートディレクションのお仕事もご依頼いただくようになりました。
ーAjiuの杜を象徴するトップページのイラストに この場所をつつみこむような、“やさしい気配”を感じます。
ナガタ トップページのイラストを描くときにイメージしたのは、架空の『熊本県熊本市Ajiu村』。市や町といった従来の地域のなりたちの次にあり、家族という形の手前にある、ゆるやかなコミュニティとでもいうか…。助けあいや支えあいが好きな人も、個の時間を大切にしたい人も、それぞれが当たり前のようにここにいて、心地よく過ごすことのできるような場所になるといいなと思ったんです。“おとなりさん”という言葉に表されるような関係性が、Ajiuの杜のなかだけでなく、そのまわりの地域全体にも少しずつ広がっていくような、そんな雰囲気が、あのイラストで届けばいいなと思います。
とはいえ、描いた当時はまだ、建物もできていませんでしたし、植栽や共有スペースなど敷地内のすべてがまっさらな状態。Ajiuの杜プロジェクトに関わる皆さんと一緒にパースや模型を囲み、「Ajiuの杜のくらしに何があったらうれしいか?」などを話しました。「ピザ窯は欲しいよね」とか、「ブランコや屋外ステージみたいなものがあったらいいね」とか。みんなで、「こんなことをしてみたい!」と考える時間は、とても楽しかったですね。
もちろん、直接的に「ピザ窯があるから住みたい」と思うわけでもないでしょうが、そうしたものがあることによって、どのようなくらしの雰囲気が生まれるか?あるいは、どんなくらしを送りたいかを想像するきっかけになればいいなと思います。
ーAjiuの杜のイラストは、仕事としてはどんなものでしたか。
ナガタ イラストの仕事をいただくたびにいつも、「今回が一番難しい」と思いながらやるんですけど、今回の仕事は特に未知数でしたね。オーナーだけでなく、建築家さんやインテリアコーディネーターさんなど、家づくりの専門家が集まるチームの一員としてイラストを手がけるのは初めてでしたから。おひとりおひとりの思いを受け、イラストに落とし込んでいくという、難しく、やり甲斐のあるお仕事に挑戦できたことはとてもありがたく思っています。実物を見る手前でご覧いただくイラストですし、Ajiuの杜に対する印象が、現実とは違うものになっていしまうのではないかというプレッシャーもありました。
でも、自分が描いたものによって誰かが行動を起こしたり、もしくは何かプラスの感情をいだいていただけるような、そんな仕事をしたいと常々思っているので、本当に貴重な経験になりました。
ー今後仕事をしていくうえで、大切にしていきたいことは?
ナガタ 本質を忘れないことですね。たとえば人を描くなら、その人がどういう環境で育ってきたかなど、目に見える部分だけでなくその背景も大切にしながら、ストーリーを感じさせる絵を描きたいと思っています。技術的な部分はもちろんですが、それ以前に、内面をしっかりと描き出す、そんなイラストレーター・デザイナーでありたいと思います。