つくり手インタビュー

つくり手インタビュー:mollis design(建築)

立春をすぎ、八幡様の梅の木がすこしずつ、ちいさなつぼみを膨らませはじめました。陽光をふわりとまとった「ウララカ」と「コモレビ」は、一足早い春のぬくもりに満ちています。
木材を削る音に混じり、ときおり聞こえてくる話し声。足場の間からのぞくと、「ホシゾラ」の1階に、職人さんたちと言葉を交わす「mollis design(モリスデザイン)」の四宮さんと小佐井さんの姿がありました。

「Ajiuの杜」の設計者で工事責任者でもある四宮さんはこれまで、注文住宅を中心に数多くの建築物を手がけてきた建築家です。そのサポート役として図面や実務を担当してくれたのが、小佐井さん。おふたりに、「Ajiuの杜」に対する思いを尋ねました。

ー「Ajiuの杜」の構想を聞いて、最初に何を思い浮かべましたか?

四宮 ひとことで言うと、“らしくない”ということでしょうか。“ありもの”ではなく、集合住宅の概念にもとらわれない“くらしの場”を、自由な発想でつくりあげていく。そんなイメージです。世帯数や、大・中・小という建物の大きさによる個性など、大枠のプランニングはすでにありましたが、そこからさらに、使いやすさや細かなサイズといったプランのブラッシュアップをさせていただきました。
一般的な集合住宅の場合、形状やタイプの同じものが複数並ぶという感じですが、「Ajiuの杜」は3棟6世帯すべてに異なるコンセプトが設けられています。そのどれもが平面ではなく立体的で、画一的ではなく個性的。自由な発想で、くらすこと自体を楽しむような、あたらしい住まいかたが生まれる予感がしています。

ーお仕事としては面白いお仕事だったと?

四宮 本音をいえばやはり、難しかったです(笑)。自由だからこそ、“納める(※)”ことが難しくなる。しかも「Ajiuの杜」は、同じものを複数作る一般的な集合住宅とは違い、ひと世帯ごとに異なるプランニングがなされています。つまり、部屋の数だけ“納める”方法を考えなければならないという意味では、大変でした。“らしくない”「Ajiuの杜」の自由さを形づくるため、部材などにも極力、既製品を用いないなどの工夫も。ひとつひとつサイズを測り、図面を起こすなどの手間はありましたがその分、やりがいがありましたね。
※納まり…建築用語。部材同士の取り付け具合や取り合わせの状態、または総合的な仕上がり具合。合理的で調和のとれた取り合わせになることを「納まりがよい」といいます。見栄えの美しさや高性能な家づくりにかかせない、職人たちの信念をあらわす言葉でもあります。

ー注文住宅のような集合住宅ともいえそうですね。

四宮 たしかに近い感覚はあるかもしれませんね。注文住宅の場合、目の前にいらっしゃるお客様がくらす家ですから、ご要望やお好み、ライフスタイルなどをに基づいた家づくりが基本です。「Ajiuの杜」は賃貸ですから、くらす人はこれから決まります。そこで、見えているようで見えていないたくさんの住み手を想像し、設計を行いました。「生まれたばかりの赤ちゃんや小さなお子さんが住まうとしたら、どんなくらしをするだろう?」「子どもは、大人よりも低い位置で生活や行動をするのだから、有害物質を揮発しない天然木の床材にしよう」「長く快適にくらしていただけるよう、長持ちがするように、熊本の気候風土に馴染んだ県産材や九州の木材を使おう」というように。NASAでも使われている遮熱シートを外壁と内壁の間に敷き込んだり、断熱効果の高い窓ガラスを取り入れたのは、まだ見えない住み手の心地よいくらしを守るためでもあるんです。

小佐井 私たちは普段、注文住宅をメインに取り扱っていますが、「Ajiuの杜」の図面を描いているときは、まるで6つの注文住宅を同時に手がけているような感覚でしたね。無垢材を使った床など、室内にも自然素材をたくさん使っていますし、ひと棟ひと棟、本当に個性的で。私も、個人的に「住みたいな」と思う家でもあります。

四宮 細部にまで気を配り、“くらす人にやさしい”つくりを貫くというのは、オーナーの益永さんたちのご要望でもありました。長くくらしても快適さがつづく賃貸住宅って、住み替えの必要がないから、注文住宅の建築を手がける私たちにとってはある意味、こわい存在です。だって、家を建てる人が減ってしまう(笑)。でもそれほどに、入居者に対する配慮が、ぜいたくになされていると思います。

ー丘の上に立ちならぶ、“ちいさな村”のような雰囲気も魅力的です。

四宮 平坦な土地に整然と並ぶタイプの集合住宅とはまったく違いますよね。窓からの見晴らしもいいでしょう?室内の完成度だけでなく、窓から見える向こうの景色というのも、建物にとっては大切なんです。土地の起伏をいかしたことで、こうした魅力を保てたのは設計者として、とてもよかったと思います。
でも一方で、施工者としてみると起伏というのはなかなか厄介です。これから20年30年先を見据え、長く安心してお住まいいただけることを念頭に、綿密な地質調査を行いました。そうして見えない部分の地盤もしっかり整備し、自然のなかで培われた高低差をいかしています。

ー「Ajiuの杜」を歩いていると、6つの世帯がつかず離れず、互いを思いやる距離のようなものがデザインされているようにも感じます。

四宮 窓から景色が見える分、外の視線も気になります。それぞれの家で少しずつ、視線をかわす(ずらす)ことができればいいなと思いました。玄関同士が正面を向いていてしょっちゅう鉢合わせをする、などということも起こらないよう、玄関の位置や、窓の位置・高さを微妙に変えました。たとえば、「ウララカ」と「コモレビ」では同じ1階部分でも、2mぐらい窓や玄関の位置に差があります。また、上から見たときに建物の向きが平行にならないようにしたのも、同じ理由です。そうすることで、それぞれの生活がかち合わないよう、配慮しました。
せっかく森を思わせる場所なので、どちらかというと“ぽつん”という感覚があってもいいのではないかと思ったんです。普段は顔を合わせなくても済むし、集いたいときにはほどよく集いあえる、そんな心地いいつながりがうまれるといいですね。

ー長く住まいたくなる仕掛けがいっぱいですね。

四宮 10年、20年と時間を重ねていくごとに、家は経年変化を遂げていきます。そうした変化を“味わい”として感じていただきたい、天然素材にこだわったのはそのためでもあるんです。

小佐井 そうした変化に愛着を感じながら、長く楽しんでいただけるとうれしいですよね。

四宮 この土地が昔そうであったように、森のような心地いい場所に育っていくことを楽しみにしています。

mollis designチーム

四宮利克(設計、工事監理(mollis design ))
Shimiya Toshikatsu

小佐井麻衣(図面および実務担当(mollis design ))
Mai Kosai

mollis designチーム
これまでに注文住宅など数多くの建築物を手がける建築家。「Ajiuの杜」では、3棟の設計や地盤調査など、安心して長く暮らすためのベースづくりを担当しています。
mollis design(モリスデザイン)
住 / 熊本県熊本市北区徳王1-7-15-102
☎ / 096-245-6479
▲