Column

01

まだ「杜」の名前すらなかった2013年。 山からも海からも、そしてマチからもほど近いこの場所には、ひたすらに地面が広がっていました。

“ここに賃貸物件をつくろう。それも、この場所でしかできないものを。”

あとから生まれるそんなテーマも、このころはまだ気配としてあるばかり。 のんびりとした風に草花がそよぎ、天気がいい日にはねこが日向ぼっこをしていく。のどかで、手つかずの更地でした。

そんな更地の状態から年が明けた、2014年の春。
「リノベーション」という言葉がネットやTVから声高に聞こえ始めたのもこのころだったでしょうか。熊本にもスタイリッシュな賃貸物件が増え始めていました。

そんなタイミングにありながら、“この場所でしかできないもの”は、まだはっきりとしていませんでした。

”ここって一体どんな場所なんだろう"

格好いい暮らしができる賃貸ならば、選択肢は他にもあります。
悩んだ末、何度となくこの場所に足を運んでは実際の暮らしを想像する、そんなことを繰り返しました。

まずは何といっても山に囲まれていて、近くに川や海といった水場にも恵まれているので、四季を感じながらの自然に寄り添った暮らしを楽しむことができそうです。
それに、中心街へのアクセスも悪くありません。自然な生活とトレードオフになりがちな利便性をあきらめる必要もないようです。

そして”この場所”に足を運ぶほどにわかってきたのが、地域のみなさんがとても好意的であるということでした。

「こんにちは」「何ができるの?楽しみにしてるよ」

口々に声をかけてくれるご近所の方たちを見ていると、みなさん互いにとても親しげで、まるで地域丸ごと「向こう三軒両隣」といった様子。
こんな場所ならば、新しく引っ越してくる住民さんたちも穏やかに受け入れてくれそうです。

だけれど、つくるのはあくまでも賃貸物件。 「あれもダメ、これもダメ」が当たり前の世界です。
ですが、そんな暮らしを想像しても全くおもしろくありません。
「あれやってみたい、これもしてみたい」を楽しめる賃貸物件ならば、そこでの暮らしはきっと面白い。
そしてそれを住民みんなで楽しめるなら、きっと、もっと面白い。

そうして、少しずつ”この場所”のあり方が見えてきた、同年の7月。

もっさりとした夏の草木に包まれる中、工事の安全を祈願して地鎮祭を執り行いました。 土地の神様に「ここを利用させてください」とお願いするこの儀式。 神主さんが祝詞を奏上してくださり、オーナーと工事関係者が斎砂(いみずな)に鍬や鋤をいれ、工事の無事を祈ります。

神様へのお供え物もたくさん。 木陰で休んでいた近所ののらねこたちにも、素敵な集まりに見えたかもしれません。

「誰も怪我することなく、工事が進みますように。
安全に、楽しく暮らせる家ができあがりますように。」

お祈りをしていると、瞬間、斎砂を舞わせんばかりの突風が!
まるで神様が「いいよ!」と言ってくれたようなタイミングに、その場にいた数人が顔を見合わせてニヤリ。
きっと良いものができる、そう期待させるような、なんとも印象深い地鎮祭となりました。

こうして始まった、”杜のはじまり”。
紅葉がきれいな秋、しんとする冬を越えて、"この場所"は杜へと成長していきます。

▲